定格出力と、発電「量」の違い

 今日は、エネルギーの単位の見かたについて、少し注釈を加えたい。
 本来なら、最初に述べておくべきことであったが、遅くなって大変申し訳ない。

 これまでの記事では、どの種類の発電システムであっても、その「出力」が、「○○kWである。」、っと言う書き方をしてきた。
 これは私だけでなく、頻繁に引用した、ウィキペディアでの記述もそうである。

 確かに、発電機の発電能力を表現するとき、「(定格)出力○○kW」と書くのは普通のことである。
 しかし、再生可能エネルギーを語るときに、この、「出力」としての「kW」では無く、発生したエネルギーの量をあらわす、「kWh」(キロワット毎時)で考えねばならないのである。

 たとえば、2日前の記事で書いた、潮汐発電所で、フランスのランス潮力発電所の「出力」は、23万kWであると述べた。
 しかしである。潮力発電所では、満潮と干潮の海水面の高低差を使って発電するのだが、満潮、または干潮の瞬間、数分または数十分間だけ、23万kWの発電が行われるという意味であり、仮に1回に1時間(おそらくもっと短い)、発電できたとしても、23万kWh×4回であり、1日の発電電力「量」は、92万kW「h」以下にしかならない。
 他方、火力発電所原子力発電所は、定格出力で、何日間も連続運転をしている。
 すでに廃炉になったが、日本最初の原子力発電所、東海第一原子力発電所の1号炉の出力は、確か16万6,000kWであったが、1日24時間、ぶっ続けで発電ができる。24時間で、3,98万4,000kW「h」の、電力「量」が得られる。定格出力は、ランスの潮力発電所より小さいが、1日のうち得られる、電力「量」は、ランス潮力発電所の4倍以上というわけである。

 このように、定格出力と、発電「量」は違う。そして、エネルギーは「力」である以上、仕事をする「量」が肝心なのである。

 多くの場合、再生可能エネルギーの「発電能力」を語る際に、「定格最大出力」で表現する。
 以前の記事で書いた、三洋電機の「ソーラーアーク」も、定格出力は、6000Kwである。しかし、実際には、晴れた日の理想的条件でも、その約8割しか発電できず、また夜、日が差さない間は、完全に発電「量」は0になる。
 多くの自然エネルギー信奉者が勘違いしているのが、この、「出力」と「発電量」の違いを区別できていない点である。

 原子力発電所は、トラブルが無い限り、普通、定期点検期間を除き、9ヶ月間、最大出力で、昼夜休みなく発電を続けている。もとより、出力も大きいので、発電「量」は膨大な物になる。
 この点が、従来型大規模集中発電の、規模の大きさと安定している点であり、再生可能エネルギーは、この点では、いまだに勝負にならないし、今後もそうだろう。

 だから、運用者である電力会社は、火力、原子力を志向するのであり、それはやむを得ない。

 しかし、再生可能エネルギーでも、この量が少なく、不安定な条件をクリアする方法があると述べてきたのが、過去の一連の記事である。
 小規模分散型電源を、地域の事情に応じて多種類、多くの場所に設置し、できる限り機器の標準化、平準化と共用を行い、スマートグリッドの思想や、新しい蓄電技術とも組み合わせて、ある程度のエリア内で、一つのユニットとして、最適効率でエネルギーが得られる仕組みを作ろうと言う発想である。

 昼間しか発電できない、太陽光発電、風任せで出力が安定しない風力発電、1日のうちに発電できる時間と回数が限られる潮汐力発電、ずっと続けて発電できるが、出力が小さい波力発電。
 これら単体では、既存の大規模発電の代替は無理である。
 しかし、そこに蓄電技術とインバーター技術を加え、構成する機器の標準化と大量生産で、機器コストを下げることができれば、各発電ユニットから、蓄電池に電力を集め、そこから安定した形で、安定した量の電力を供給することができるはずである。
 また、電力に限らず、太陽熱、雪冷熱などの貯蔵をし、それを地域冷暖房の熱源として利用することもこのシステムに加えるのである。

 あと、これまで触れてこなかったが、地熱エネルギーは、再生可能エネルギーの中では、もっとも安定度が高い。ただ、利用可能な場所が限られると言うだけである。
 地域に応じて、各種の再生可能エネルギーと蓄電装置を組み合わせ、そしてできれば、送電ロスを減らすために、発電したエリア内で、その電力を消費する、という形態が望ましい。

 すでに、大規模発電・送電システムが完成している日本では、上記のような、地域ごとの複合的発電ユニットの登場する余地は少ない。
 しかし、まだ発展途上、または電力需要が今後のびていく国々に、新規に大規模発電・送電システムを作る投資よりも、地域ごとに複合的発電システムを採用していく方が、コスト的に優位になるかもしれない。その国またはエリアで、工業化により大きな電力源が必要な場所にだけ、大規模火力を設置すればよいのである。

 こうすることにより、新興工業国の地方の生活電源や、水の淡水化事業。それに続く発展途上国での、工業化以外に必要な電源を、すぐに安価で提供できる。再生可能エネルギー源の複合的発電システムのプラントを持ち込むだけで、配電網の整備さえすれば、電力供給までのコストや建設時間は、うんと短くて済む。

 そして、そのようなユニット、プラントを新規に設計・建造し、その機器と合わせて、メンテナンス技術を輸出できるようにすることが、日本が新しいエネルギー技術で世界をリードする手段となる。

 さらに、全くの遊休地や、誰も住まない海岸などに、これらのユニットを設置し、そこで得られた電力で、エタノールや水素を作ると言うのも、一つの事業として育てていければ、自動車や船舶の燃料として、石油を使わなくても済む時代が来るかもしれない。飛行機の燃料としても、レシプロ式の飛行機なら、バイオエタノールで飛ばすことができるし、化石燃料との混合によるジェットエンジンや、水素燃焼による、ターボプロップエンジンなど、航空機の燃料も、ほぼ無限に供給できるようになるのである。

 確かに、今、すでに確立している電源、エネルギー源の前に、上記のようなユニット・プラントは、まだコスト的に引き合わないだろう。
 しかし、遠くない将来、必ず訪れる化石燃料の枯渇による、燃料価格の高騰は、上記のようなユニット・プラントの普及のインセンティブになるであろう。
 また、二酸化炭素だけではない、各種温暖化ガスを一切出さない、再生可能エネルギーの利用は、今後進めていくべきものと考える。

 明日以降は、2つの方向に別れて記事を書いて行く。1つは、既存の火力、原子力などにおける技術革新の成果の紹介である。もうひとつは、これまで述べてきた再生可能エネルギーよりも、さらに、未来技術に属する、バイオ重油やバイオ軽油の話など、エネルギーを取り巻く、最近の技術、研究の成果の紹介をしたい。