新エネルギー開発、序説

 「新エネルギー開発」と言っても、核融合のように、特段新しいエネルギーの開発を指すわけではない。
 私がここで用いたいのは、「自然エネルギー利用の大幅な拡大」と、「一次エネルギーと二次エネルギーの従来の関係の逆転」の2点に重点がある。

 前半については、特段あらためて述べる必要もないだろう。だが、世の中で、まことしやかに言われている、「自然エネルギーこそ、すべての救済」という説をまず否定しておく。

 たとえば、だいぶ前に言われていた意見だが、日本中に降り注ぐ太陽光のエネルギーは、日本で消費される電力をはるかに超える。太陽光発電装置(光=電気変換効率は1割前後)をもっと設置すれば、原発も火力発電もいらない。

 はい、落第点。

 この意見が出ていた当時より、太陽光発電の基板の変換効率は確かに上がっている。しかし、もし、日本の全電力を太陽光で賄おうとした場合、住宅の屋根だけでなく、農地、森林を伐採し、可能な限りあらゆる場所に太陽光発電パネルを設置する必要がある。
 それほど、日本人が消費している電力は大きく、また太陽光発電の発電エネルギー密度の低さは、まだまだなのである。
 単純な数字の遊びで、原発反対のために、この手の意見を述べる、理系では無い人たちの単純さは恐ろしい。

 同様に最近出た話で、千葉県銚子沖の水深200mの大陸棚で吹いている風のエネルギーは、やはり日本の総発電量の数倍にもなる。そこに風力発電所を設置すれば原発はいらない。

 はい、間違い。

 自然エネルギーの単純な量を測定すれば、そういうことは、どこででも言える。しかし、大陸棚の範囲までの、数万平方キロメートルに、発電効率100%(そんなものは無い)の風力発電機を、冬の荒波で有名な銚子沖に、何百万機も設置することはまず不可能だし、運用できない。まだ、フロート搭載型洋上風力発電装置は実証研究が緒についたばかりである。
 現実を知らずに夢を語ることなかれ。

 そして、上記2つの意見の最大の問題は、自然エネルギーの「不安定さ」にある。2例だけあげると、冬の間、もっともエネルギーを必要とする北国ほど、降雪や曇天で、太陽光発電の効率は大幅に低下する。晴れた日の分を蓄積しておけないのが、現在の電力運用技術だ(Nas電池などの実用化はあるが、設置場所の問題も含め、すべての電力に適用するのは、やはり不可能)。
 単純に理想的条件での自然エネルギーの量だけをもてはやし、反原発の意見の基礎にするというのは、大きな間違いである。
 次に、日本に限らず、人間が消費しているエネルギーは電力だけでは無い。ガソリンなど、自動車や船、飛行機の燃料として消費しているエネルギーも莫大である。電気自動車は実用になりつつあるが、電力で動く船舶は、運搬効率上、ガソリンエンジンに劣るし、飛行機は模型飛行機や蚊トンボのようなグライダー以外、電力では飛ばない。

 以上、自然エネルギーに関する、夢をまず打ち砕かせていただく。

 では、その事実を知りつつ、なぜ、改めて、自然エネルギーを重点に置いた、新エネルギー開発に、今後の日本の産業構造をかけるべきだと主張するのか?

 それは、運用方法の改善による。もちろん、発電技術の進歩も視野に入れる。
 そして、「エネルギーの形態」もまた、電力にこだわらない、という考え方である。

 なお、原子力発電については、慎重肯定の立場に立つ。ただし、無限定な増設には反対で、最近の電力需要の伸びの低下(不景気と、省エネ機器の普及による)の中では、これ以上の増設が必要とは考えない。そして、私が期待する、新エネルギー開発が成功し、普及したら、徐々に減らしていければと思う。「絶対反対、ただちに廃止」という人々の無責任さよ。その分のエネルギーをどこから持ってくるかを考えずに、反対を叫ぶだけで、自分がなんらかの正義をなしていると思っている人は、単純すぎる。
 具体的な新エネルギーによる代替があって初めて、原発からの脱却が可能となる。

 前提を長く述べすぎたかもしれない。
 では、私が考える、来るべき新エネルギーとは、何かと言うと、太陽光発電はすでに普及が始まっているので、触れない。ただし、それだけで全エネルギーをまかなうのが無理なのは上記のとおり。
 私が、今期待するのは、上記の批判と矛盾するようだが、小・中規模洋上風力発電装置を日本中に設置すると言う物である。
 上記の銚子沖の例と違うのは、分散立地により、一部で発電できなくても、他所では発電で来ていると言う、相互補完を目指すためである。
 そして、小・中規模と言うのは、固定フロート方式では無く、自航、えい航は場合によりけりだが、天候や波浪の状況により、設置個所を移動させられるようにすると言う物である。
 今、この技術を研究しているのは、三菱重工と、九州大学をはじめとする研究機関である。発電効率をアップさせ、また、発電した電気エネルギーをそのまま送電するのではなく、発電している場所のすぐ近くに、水素製造工場やバイオエタノール製造工場を併設し、発電が順調な時には、それを可燃物である液体、気体に変換して、貯蔵可能にするという考え方である。これが、二次エネルギーであったはずの電力を、一次エネルギー(燃料)に変換すると言う、考え方である。
 私は、もう一歩進んで、それらの燃料製造工場も船やフロートに載せてしまい、必要な箇所に移動して効率的運用を図ることを考えている。

 個人的趣味としては、洋上風力のフロートには波力発電装置も付けてはどうかと思う。波の影響を軽減するのにも役に立つ。

 上記のプランの問題点は3つ。
 まず、日本中の海岸線を埋め尽くすほどの洋上風力発電装置を作っても、日本中の電力使用量をまかなえるかどうかは、わからないこと(多分無理)。
 次いで、運用の手間がかかること。銚子沖ほどではないが。しかし、それが新たな雇用を生み出すとも言えるのであるが。
 そして最後に、景観を重視する人には泣いていただくことになる。松島など、一部の景勝地を除いては、発電用がペイする場所にはもれなく設置する必要があるからだ。

 次いで、利点は以下の4つ。
 洋上での運用と言う、経験を重ねれば解決する問題以外、既存技術で対応できる。
 そして、水素やバイオエタノール製造で、自動車や航空機の燃料を供給することができる点。
 発電装置自体は、最近指摘されている、低周波公害や、バードストライク以外の公害を起こさない。血も涙もないかもしれないが、バードストライクがいけないから風力発電に反対だと言う人はとは議論できない。何が今、重要なのかの優先順位をつけなければ、「あらゆることで誰もが満足する」モノなどありはしない。
 そして最後に、これで培った技術やプラントを、世界中に販売すると言うことである。最後の点がもっとも重要であろう。日本がエネルギー輸入国から輸出国になるのである。そして、技術開発を進め、他国に追い付かれる前に、さらに先のシステムを構築していくのである。

 これが、私が考える、新エネルギー開発論の一つである。
 まだまだ検討しなければならない点は多い。また、国家規模でこれに取り組むとすれば、まさに産業構造は激変する。そう簡単に、また短時間で実現できるとは思わない。

 しかし、自然エネルギーを基にし、それにより雇用を生み出し、さらにそれを海外に販売すると言うためには、上記の考え方が一つの解であると考える。

 なお、このシステムが究極にまで普及しない限り、原発も水力、火力発電も残るであろうことは間違いない。ただし減らしていけるであろうことも間違いない。

 今朝はもうでかけるので、ここまでにしておくが、明日以降、さらに細かく検討していきたい。