太陽光発電などの運用についてと、三洋電機の「ソーラーアーク」について

 太陽光発電のデメリットは、やはりその不安定さと、密度の薄さにある。
 一方、太陽光があたる場所ならば、セル(太陽光発電半導体)を貼ったパネルを設置すれば、どこででも容易に発電ができる。

 現在、太陽光発電の利用として普及が進んでいるのは、以下の3通りである。

① 新規に建設が始まっている、メガソーラー発電所

② 家屋の屋根などにパネルを設置し、各家庭への電力網に、発電した分(インバーター装置により、交流化されてから)が、逆に流し込まれる。家庭からの買い上げ金額が、先日、従来の電気料金と等価から、その倍に引き上げられた。

③ 配電線をひくにはコストがかかるような場所や、メンテナンスが面倒な場所に設置する機器の電源として、機器に直接パネルをくっつけて利用する。

 今、国策による太陽光発電の普及拡大のために、②のように、家庭で発電された電気の電力会社の買い取り価格が従来の2倍になった。
 しかし、これは政策価格であり、その分の電力会社の負担は、電気料金全体の値上げとなって、太陽光発電をしていない家庭や工場などの電気利用者の負担となる問題が指摘されている。

 ①についても、たぶんに、電力会社の環境アピールの要素が強く、太陽光発電の抱える、基本的な問題(不安定さ、密度の薄さ)を解消するものではない。

 以前の記事でも述べたが、現時点での、最高の光=電気エネルギー変換効率を達成したセルは、ドイツの研究所の41%の変換効率である。これは今後も上昇するだろうが、100%にすることは不可能と思われる。
 以前の記事では、仮にその倍の80%の変換効率になったと仮定しても、1㎡あたり、赤道付近で700W程度と試算した。
 緯度により、太陽光の入射角が変わり、単位面積当たりの発電量は減る。北緯45度程度の日本付近では、上記の数字の半分程度か?既存の最大の変換効率のセルを用いても、1㎡あたり、200Wに届くかどうかであろう。
 この数字が当たらずとも言えども遠からずであったのは、後述する、三洋電機ソーラーアークと言う、日本最大の太陽光発電システムの運用実績からわかる。

 と、ここまでは、過去の記事でも述べたことを、再検討のうえ、書いたものである。実際には、パネル表面の汚れ、悪天候による発電力低下、また、セルからパネル、パネルからインバーター装置、インバーター装置から、低圧配電線へと、途中の処理を経る際に、必ずロスが出る。
 ②や③が、パネル設置場所から、配電線または機器まで、非常に近いので何とか成立しているが、もし、何平方キロメートルもの、太陽光発電所を作ったとしても、低圧の電力線で電気を集める過程で、電気抵抗によるロスが生じ、パネルの発電力×枚数、を大きく下回る電力しか得られないであろう。

 上記の4行が、意外と知られていないし、また致命的な問題だと言うことである。
 電力は、送電電圧が高いほど、効率よく送れる。しかし、太陽光パネルで発生する電力は、電圧がごく低い。それを、家庭のような単位で、インバーターや昇圧器を設置しているから、電力線網に流すことができるようになっているのである。
 もし、ものすごく広い、太陽光発電所を作るとしても、付属機器(インバーターや昇圧器)は、かなり細かい単位で設置しなければならない。とすると、コストも上昇する。
 ということで、私は、大規模な太陽光発電所、というのは、ある程度までの広さで限界になると思う。だから、太陽光発電所に期待はしていない。

 では、どうするか?である。

 私は、地上風力や温度差発電(後日書きます)、都市の水路に設置する案がある超小規模水力発電など、考えられる再生可能エネルギーを、ある程度の範囲ごとにまとめて運用して行おく方向性を模索している。
 「チリも積もれば山」の考えに立ち、エネルギーロスが、大きくならない範囲のエリアで、そのエリア内にある再生可能エネルギーを、複合的に運用し、周辺機器を共用し、効率化を図る考え方である。
 そして、そのエリアでまとまった電力を、高い電圧で送ったり、またはそのエリア内で消費したりするという方法で、ロスを減らす方法を考えるべきだと思う。こういう考え方を実現するのが、「スマート・グリッド」の、本来的考え方である。

 どの程度のエリアで、どの程度の発電が可能か?などは、正直、場所ごとに異なるに違いない。まったく採算的に成り立たない場所もあるだろう。風力がメインとなるエリアもあれば、太陽光がメインとなる場所もあるだろう。
 これらのハイブリッド型、再生可能エネルギー運用システムを、可能な限り、平準化された機器構成による、量産効果によるコスト削減汚と、ユニット化による、小規模プラントとしての販売を検討してはどうかと思う。
 太陽光発電セルの効率、小規模風力発電の効率、その他の再生可能エネルギーの開発、が進めば、すべての場所では無理だろうが、都市でも農村でも、ある程度の発電単位が形成できると思う。

 逆に言えば、現状のままの太陽光発電、地上風力発電では、採算性と、ロスの問題から、今以上の拡大は困難ではないかと考えている。

 ここで、先に述べた、日本最大の太陽光発電設備、三洋電機の「ソーラーアーク」についてと、その運用実績から得られた情報を述べておく。
 「ソーラーアーク」は、三洋電機の技術力PRのためと、実験のために、工場敷地内に作られた、幅300m以上、高さ37mの、両端がすぼまった形の長方形をした太陽光発電パネルを敷き詰めた、南向き固定の太陽光発電設備である。
 使用されている太陽光発電セルは、同社のもので、2003年の建設時点では、変換効率が約20%のものであった。

 定格出力という言葉が適切かどうかはわからないが、計算上の最大発電能力は、6000kWである。
 しかし、ここからが面白い。
 太陽光発電セルは、それ自体が太陽光の熱を受けて温度上昇すると、変換効率が落ちることが知られている。
 一般の家庭に設置されているパネルには、まだ、その温度を下げるシステムまでは組み込まれていない。組み込むのは簡単だが、設置コスト、運用コストがかさむ。
 ソーラーアークにおいては、たまたまであったらしいが、構造物の中身が、展示室になっており、空洞であった。この結果、各セルが、裏面から熱を放射でき、温度上昇による効率低下を防げた、ということだ。
 これは今後の、「メガソーラー」発電所の建設の際に参考になるだろう。
 この結果、通常の太陽光発電設備の、「運用効率」が、定格出力の69%程度であるのに対して、80%を超える運用実績が得られた。ここでいう、運用実績とは、曇りの日などの関係で、定格出力の何%が実際に発電できるかの数字である。
 最終的な結果として、ソーラーアークでは、平均で、日中、84W/㎡の発電を達成したそうである。これは、私が試算した、数字にきわめて近く、現在最高の変換効率である、41%を用い、さらに、運用効率が80%とすると、理想的条件下で、最高の変換効率のセルを用いれば、154W÷0.8(80%の運用効率)となり、192W/㎡となる。

 また、ソーラーアークでは、幅300mの構造物の左右両端にインバーター設備を持っている。
 この点が、今日の前半で述べた、太陽光発電のネックである、広すぎると低電圧による、送電ロスが生じるので、インバーター設備を含めて、まめに設置する必要がある、と言うのを、実証してくれたわけである。

 ソーラーアークは、今後建設される予定の「メガソーラー」発電所よりも規模が大きく、出力も大きい。同じものに、より高効率のセルを付け替えれば、発電効率はさらに上がるに違いない。

 で、話が戻るが、ソーラーアークと言う、実証試験設備の運用結果から、やはり、私が述べてきたように、太陽光発電の発電密度の薄さは、どうしようもないことがわかる。一方で、遊休地に、ユニット化し、幅75m、高さ10m程度の「ミニ・ソーラーアーク」を、たくさん設置してはどうかと思う。
 構造物自体は、意外と簡単にできている。内部の展示室になっている空洞に、昇圧器や、整流器を設置して、自動運転で、送電線に電気を送る。
 固定された建物ではなく、「ソーラーアーク」の四分の一程度の大きさで、さらに、それを三分割して運搬できるようにする(1つあたりの幅が、25mになる。土台はまた別に作り、運ぶ。)。

 そして、使用しても良い遊休地に、これを、置き、地震などで倒壊しないように土台を、パイルで固定し、その上に、設備を展開する。
 大きさが四分の一であるから、発電可能な面積は、16分の1。しかし、最高効率のセルを用いれば、8分の1程度の発電ができる。
 ソーラーアークの定格出力が、6000kW。運用効率が80%以上、変換効率は、現状最大の41%とすると、この「ミニ・ソーラーアーク」は、600kWの発電が可能である。これは、一般家庭20〜25軒分に相当する。
 地方で、ある程度集住している集落の昼用電源として、また、NaS電池と組み合わせて、夜でも電気が使えるようにすれば、実用性は決して低くないと思われる。
 このユニットを、前述の、ハイブリッド型、発電機器運用ユニットの要素に組み込めれば、いろいろな場所で発電が可能になるであろう。

 太陽光発電で、日本の全エネルギーを満たすのは無理である。しかし、ハイブリッド型運用システムの一部として用いれば、実用化の可能性はあるということである。