【再生可能エネルギー論】洋上風力発電システム、私論。

 今日は、少し長くなるが、私がイメージしている、洋上風力発電の大規模なシステムのプランを開陳することにする。

 再生可能エネルギー ≒ 自然エネルギーの欠点については、以前述べた。  エネルギー密度の低さと不安定さ。また、その不安定さが、電力送電線、配電線のネットワーク(これを専門用語で、「系統」という)に接続する際、全体に電圧効果などの悪影響を及ぼし、単純に、再生可能エネルギー発電機を、どんどん系統に接続すればよいというものではないことも、述べた。

 再論すると、前のバージョンの社民党のHP(最近大幅に更新された)にあった、100万kW級の大型洋上風力発電装置についてであるが、100万kWというのは、大型原子力発電所を意識しての数字であろう。
 しかし、100万kWという、風頼みで不安定に出力が変動する風力発電機を、「系統」につなぐことはできない。その不安定な変動が、「系統」の信頼性を損ない、瞬時電圧降下などによるブレーカー(遮断機)の作動により、全体の停電を引き起こしてしまうからである。

 では、それでもなお、私が、風力発電。特に「洋上・中、小規模」風力発電に着目するかというと、これに、フロートや船舶に搭載した、NaS電池(ナトリウム・硫黄電池 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%BB%E7%A1%AB%E9%BB%84%E9%9B%BB%E6%B1%A0 )を接続し、いったん蓄電し、そこ から安定的な電気の品質で送電することを考えているからである。
 NaS電池は、日本が開発したもので、すでに産業の現場で実用化されている。規模も2000kWクラスが普通であり、電池であるから、積層化して使うこともできる。昨年には、製造元の日本ガイシが、フランスから15万kW規模の受注をした(http://greenpost.way-nifty.com/k/2009/05/300400-nikkei-n.html)。 

 充電、放電の時間も、現在電気自動車の主力電池として使われている、リチウム電池よりも優れた特性を持っている。大規模に運用するのに適した電池といえる。
 ただ、ナトリウムや硫黄が、危険物(可燃性、酸素との反応性が高い)であるのと、高温(350度以上)で運用されること、が問題点として指摘されているが、現時点まで、特段事故は起きていない。

 では、私がイメージする洋上風力発電所システムの概要を説明しよう。

 一部の機関で研究されている、「メガフロート」(大規模浮遊躯体)の上に、現在陸上で使用されている、主に1500kWの発電能力を持つ発電機を複数搭載するのとは、別の案を考えている。別にメガフロート案に反対しているのではないが、よりフレキシブルな対応と、海外に販売できる技術として、中小規模の方が有利だと考えるだけである。

 私の考えでは、「メガフロート」ではなく、もっと小さなフロート1基あたり、1〜3基の、出力5000kWの風力発電機を設置する。これを、仮に「ユニット」と称する。 この「ユニット」(仮に、1フロートあたり、1基の発電機とする)を、複数、だ円形または平行四辺形型に洋上に配置するのである(相互の風の妨害を避けるため、各ユニットの配置には、新たな経験の蓄積が必要であろう。だ円形、平行四辺形というのは、私の仮説である)。
 配置は定型である必要は無く、各フロートに、弱い自航能力を持たせるか、小型の専用の無人曳航艇により、各ユニットは、その時々の風や、波の状況に応じて、方向や配置を変える。
 風車自体も風向きに応じて方向を変える能力を持つが、大量運用の際に、相互に邪魔をしないように、全体を統括する必要があると思われる。これにより、その日のもっとも発電効率が高くなるように、フレキシブルに、ユニットは配置を変える。

 あくまでも想定であり、実際には厳密な風洞実験が必要であると思うが、たとえば、現在の地上設置の風力発電機が、羽の回転する直径が約15mである。それで最大出力が1500kW。 私が考える発電機は、九州大学が研究中の扇風機型のものであるが、これの直径は30mと仮定する。
 現在の地上型に比べ、風に向かう面積は4倍(面積自乗)になるので、発電出力も4倍の6000kWと想定できるが、安全側にとって、5000kWととする。九州大学の目指している数値はもっと高い。
 この発電機を搭載したフロートを、相互に90mの間隔を置いて配置する。四角形で考えると、1200m四方の範囲に、100基のユニットを配置することができる。

 洋上では、1200m四方というのはさほど目立つ、また障害になる大きさではない(東京湾、瀬戸内海など、船舶の往来が激しい場所は除く。)。
 これも、安全側に数値をとって、一辺1500m程度のひし形に、100基のユニットを展開すると仮定する。
 これで、最大の発電量は50万kWになる。中規模の原子力発電所に匹敵する。ちなみに原子力発電所の敷地の広さは、こんなものではないことは言うまでも無い。
 実際の発電量は50万kWを下回るであろうが、せめて平均で20万kWは望みたい。
前述のNaS電池の受注実績からも、無茶な数字ではない。

 これら100基のユニット全体で、1発電所(「サイト」と仮称する)を形成する。
 実際に風洞実験を行い、また、気象条件などにより出力を計算すれば、より正確な数字が出ると思うが、私にはそれをすることができないので、あくまでも、安全側に仮定をしながら、想定していく。

 この「サイト」単位に、まず、NaS電池を搭載した蓄電池船を複数、セットで用意する。フロートにしないで、可動の船舶に乗せるのにもわけがある。洋上数キロ、数十キロに位置するサイトから、送電線を引き、維持するよりも、その場で船舶に載せた蓄電池に接続し、蓄電したほうが、効率が良いと思うからである。 海底送電線のほうが安価で確実なら、そうすればよい。
 仮に船を使うとした場合、数隻の蓄電池船が、交代しながら地上の受電設備に電気を運び、そこから交流に変換したり、電圧を調整したりして送電線につなぐ。
 陸上の受電設備(受電基地)は、1箇所で、複数の洋上「サイト」を受け持つ。この受電基地が、現在の火力発電所などに該当することになる。
 たとえば、湾であるので比較的波が穏やかな相模湾や伊勢湾の、沖合い10キロ以上の地点に、間隔を置いて、「サイト」を複数設置する。蓄電池船は、それらを巡回しながら、1箇所の受電基地に電気を「荷降ろし」する。蓄電池船の規模や、搭載するNaS電池の規模、全体の隻数は、想定できないが、最適解が必ずある。
 この方法に、技術上の問題はほとんど無い。現状、5000kWクラスの風力発電機が無いことと、洋上での運用実績が無いが、それは、実験室レベルで検証できるし、技術上の新発明は必要としない。運用実績を積み重ねれば、さらに精度は向上する。

 あくまでもそういう想定で建てているプランであり、実際にはもっと技術は進歩するだろう。あとは、コストの問題である。
 上記の想定案では、5000kW出力の「ユニット」。それを、100基集めた「サイト」。そして、サイトを効率的に運用するための管理基地や無人曳航艇、蓄電池船、陸上受送電基地をセットで考えている。 日本各地に、このセットがいくつか設置できれば良いのである。

 しかし、たぶん、これだけでは、コスト的に引き合わないものと考える。そこで、このシステムに、別の要素を入れる。 NaS電池により、確かにある程度の電力の貯蔵は可能になった。
 しかし、風力発電所は、風さえあれば、夜も昼も発電を続けている。発電電力が余った場合はどうするのか?この余剰電力を有効に使えれば、全体のコストを下げることができる。発電電力が足りない場合は、従来どおり、原子力や火力に頼らざるを得ないが。

 そこで、私は、風力の余剰電力で、バイオエタノールや水素を作り、それをガソリンの代わりに自動車の燃料として供給したり、火力発電の燃料として使うことを併せて行うことを考えている。
 バイオエタノール製造プラントや、水素発生プラントを、船に載せて、「サイト」に接続して、蓄電船の能力を超える分の電力で、バイオエタノールや、水素の製造を行うことをまず考えた。
 これは、船ではなく、大型のフロート上に設置しても良いかもしれない。製造された燃料の輸送は、より小回りの効くタンカーが担うことになる。
 別の考え方として、蓄電池船を増やし、すべての電力は、地上の受送電基地に運び、そこで、送電線網(系統)に流せなかった分を、エタノールや水素燃料製造に使うということも考えられる。
 これもまた、運用上のコスト計算の話であり、燃料貯蔵設備の設置も考えると、製造プラントも陸上にあったほうが良いかもしれない。

 以上の運用方法で、上述の相模湾、伊勢湾のほか、駿河湾、高知沖、有明海、瀬戸内海の一部、日本海側では、隠岐や、能登半島の陰になる富山湾、青森のむつ湾も候補地(海域)になろう。
 また琵琶湖や霞ヶ浦のような広大な内陸湖沼でも、同様のことができる。
 洋上の場合、漁業権や船舶の運航などの問題から、1「サイト」における、「ユニット」の数は、何も100基にこだわる必要は無い。最低は、離島などで1〜3基からでも運用できるし、30基、50基、100基、200基など、付属する管理基地や、蓄電池船や燃料製造船などの総体のコストを考えて、適正規模を考えればよい。離島では、海水の淡水化による水資源の供給源としても期待できる。

 私は、日本国内の全電力を、この洋上風力発電システムでまかなうことを考えていない。ベース電力として、当面は原子力発電、火力発電は必要だろう。
 あくまでも、夢想に属する話だが、上記のようなシステムを、上記のような海域で、全面的に展開すれば、日本の電力の総電力需要の30%程度をまかなえるかもしれない(製造した液体燃料を燃料とする火力発電所の発電量を含む。)。

 だが、この洋上風力発電&燃料製造システムと、他の再生可能エネルギーの技術進歩はやがて、全電力の相当の割合を占めていくであろう。石油の枯渇は、まだ先といわれているが、100年はもたない。そうなれば、コスト的にも引き合うはずである。電気や自動車だけでなく、航空機の燃料となるエタノールや水素を製造するという点にも大きな意味がある。
 また、ベース電力としては、核廃棄物が圧倒的に少ない核融合発電が実用化されるときがくると期待する。
 だが、意外と知られていないが、核融合発電を行うには、まずプラズマを臨界状態に維持するために、巨大なエネルギーが必要である。そのために、やはり、バイオエタノールや水素を燃料とする火力発電所はなくならないであろう。

 太陽光発電は、やらないよりはましであるが、夜発電ができず、また冬や悪天候時、積雪。発電パネルの汚れへの対処。などを考えると、またエネルギー密度からして、補完エネルギーの枠を出ないとは思う。
 最近、「メガソーラー発電所」などが話題になっているが、「メガワット」とは、1000キロワットに過ぎない。 
 既存の風力発電風車1基が1500kWの出力を持つことと比べると、エネルギー密度の低さは比較にならないほど低い。しかも昼間のピーク時だけである。

 風力はムラがあるが、昼夜を問わず発電できるし、よほどの荒天でもなければ、発電を継続できる。このように、上記の洋上風力発電&液体燃料製造システムは、技術的に十分に可能であり、機器の効率と耐候性能の向上。ユニット機器の平準化・大量生産。サイトの運用方法の進歩。さらにそれらの技術や機器の海外への輸出を行うことにより、コスト面で大幅に下げていくことが可能であろう。
 二酸化炭素排出枠取引においても、有利な取り扱いが期待できる。また、新たな産業分野の育成と言う点でも、また運用技術自体を販売、メンテナンス事業など、海外を視野に入れれば、さらに新たなビジネスモデルが可能となろう。

 推進主体は、電力会社である必要は無い。電力の卸売り、高圧供給までは既に自由化されており、地上の受送電基地以降は電力会社にまかせる場合もありうるが、洋上風力発電システム全体は、資金さえあれば、国、地方自治体、有意な企業などが行うことができる。蓄積している技術からして、造船会社、船会社の参入に期待したい。

 上記では、湾を中心に述べたが、洋上風力発電機の設置場所は、水深200mの範囲まで、アンカーなどで海底に固定する方向でも検討されている。
 台風などで、発電ができなくなったり、「ユニット」に被害が及ぶ状況になっても、折りたたみ式の羽根にすれば、台風をやり過ごすことができる。
 発電もでき、折りたたみもできる羽根の強度と構造というのは難問だと思うが、素材を含めて、研究の余地はあるし、技術的・工学的に不可能とは思えない。
 ユニット相互が衝突して破損しないように、相互の間に緩衝材を配置するなどというのは、運用上の小ねたに過ぎない。フロートに注水して、半水没状態にして、風波をよけるのも同じだ。
 また、小規模な「サイト」の場合、海岸近くに設置し、台風時は近くの湾にまるごと避難することもできるだろう。メガフロートではこうは行かない。

 私は、上記のような大規模な「サイト」だけでなく、コストとの見合いではあるが、小規模分散型で、発電が見込める場所にきめ細かに設置していくことを考えている。その場合は、船ではなく、海底送電線で、電力を運べばよい。障害となるのは、景観問題だけであろうか。
 他にも小ねたは、いくらでも出てくる。フロートに波力発電機を併設し、波の影響を小さくしたり、太陽光発電パネルを敷き詰めて、発電の補助にしたり、「ユニット」は季節によって増減させても良いかもしれない。等々。

 このようなプランは、たぶん、研究者の間ではすでに議論になっているものと考える。九州大学は、発電した電力で水素を製造することを考えていると発表している。
 ただ、水素の本格的な利用にはまだ時間がかかると思われる。水素は爆燃性があり、また分子が小さいので、貯蔵が難しいなど、まだクリアすべき課題が大きい。
 それがクリアされるまで、洋上風力の開発を待つ必要は無い。私の考えのようなやり方もあるはずである。

 専門の方がおられれば、ご意見も頂戴したい。

 なお、この件は、具体性がまだ欠けるため、単なる試論に過ぎないが、一種のビジネスモデル特許の候補として、ここに提案させていただく。

 これは一つの夢である。しかし、実現可能な夢である。
 電力貯蔵については、常温超電導技術の進歩により、NaS電池を超える電力貯蔵ユニットもできるかもしれない。

 あとは、やる気の問題である。
 民主党が、本当に、再生可能エネルギー、環境技術で世界をリードし、新たな産業構造の基盤とするという政策を目指すのであれば、このようなプランをどんどん出していくことが望ましい。
 また、初期投資は、国家が主導すべきだろう。

 長くなったので、今日はここまでとする。